このER心電図は、なんかイヤですね。
直感的に、ヤバイんじゃないか?と思えれば、合格だと思います。
とはいえ、きちんと読み込んでみます。
* P波がない! 徐脈です。 →心電計くんは、接合部調律と云っております。
* CRBBBです。 →心電計くんも同意しています。
* ST-T変化が広範囲である。 →ここは、心電計くんと意見が異なります。
自動診断は、上下の変化(ST-T変化)を読み取るのが、ちょっと苦手です。
わたしは、下図のように読み取りました。
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下壁の急性心筋梗塞(II, III, aVF)で、プラス後壁のミラーイメージとしてのST低下・・・とするには、広範囲すぎますね。何かがおかしい。
もしかして、LMT病変? 三枝病変? と心配になります。
そして、もうひとつ考えるべきが、大動脈疾患です。
この症例は、RCA-ACSを合併した大動脈解離(Stanford-A型)でした。
一時ペーシングを施行しつつ、緊急手術に対応して下さる心臓外科の病院に、緊急搬送となりました。
当院で記録したERでの造影CTです。
(早期相と平衡相の比較)
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早期相では、intimal-flapがハッキリしません。造影効果が強すぎるのと、真腔・偽腔の造影剤濃度があんまり変わらないため。偽腔への短絡量が多いんですね。
平衡相では、複雑なintimal-flapが分かります。エコーでみたら、はためく旗のように、ヒラヒラ大動脈内で泳いでいます。
平衡相での、transverse→coronal→sagittal planeでのCT像です。
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バルサルバ洞からarchまで解離があります。心タンポナーデなし。
大動脈解離で、右冠動脈入口部の損傷を認めました。
上行大動脈置換と、SVGによる右冠動脈バイパス術が施行されました。
幸い、特に障害を残さずに、歩行退院されています。
【大動脈解離に合併する冠動脈解離は、RCAに多い】
* 解離の血行動態として、RCAに解離が及びやすい。
* LMTが解離すれば、ERまでたどり着かない事が多いんだと思います。
【大動脈解離では、心電図異常がないのは3割程度しかない】
* カテコラミン出まくるし、血圧も異常高値となりやすい。
→たこつぼ心筋症的ST-T変化の出現
* 解離によりバルサルバレベルでの冠動脈圧迫が生じる。
* 冠動脈入口部の解離が起きる。
* 血性の心タンポナーデが発生して、心電図変化となる(ことあり)。
→この部分は、以下の書籍を参考にしました。感謝です。
(心電図で見方が変わる急性冠症候群 p-83:小菅雅美 先生)
【大動脈解離で、胸部レントゲンの大動脈の拡大が起きるとは限らない!!】
* 昭和の時代は、解離性大動脈瘤(dissecting aortic aneurysm)と呼ばれていました。全身CTなどない時代で、胸痛→胸部レントゲンで大動脈が膨らんでいる→大動脈造影(アンギオ,Pigtail-cathe.)で解離の発見→手術!だったのです。
* しかし、カラードプラエコーの台頭。経食道エコーの臨床応用。造影CTの発展により、大動脈が瘤化しない解離があることが、一般的に理解されるようになります。
* よって、(解離性大動脈瘤)から(大動脈解離:aortic dissection)と、見たまんまの呼び名に変わりました。
解離性大動脈瘤と云うイミフ(・_・?)な名称は、昔は意味があったんですね。
【大動脈解離で、ACSとして抗血小板薬をERで噛ませたら、さあ大変!!】
* 「私は、ACSと大動脈解離を間違えたことはない。」と云いきれるドクターは、名医か、または経験不足だと思います。
* もしかして、大動脈解離では??と立ち止まって下さい。tPA・ヘパリン・抗血小板薬を入れたら、目も当てられないのは、ご理解頂けますよね。