ECG-184:90才代女性。肺炎と心不全で入院の心電図です。
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** ハジメの1枚:新入職医師のための心電図-05 **
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( 成り立ての1年目研修医のための詳細な説明を、今回行ってみます )
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心電図は、著明な左室肥大です。
これに、右鎖骨部位での聴取できる収縮期雑音。
→大動脈弁狭窄(AS)以外、まず思いつきません。
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では、詳細な説明へ。
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(聴診について)
* うるさいERで聞こえる心雑音は、本物です。
* 収縮期な否かは、心電図モニター(を見ながら)で確認できます。
又は、頚動脈拍動を触知して下さい。触れるときが収縮期です。
{橈骨動脈では、時相差150msec.あり、ずれてダメです}
* 高齢者の明瞭な収縮期雑音は、まずASか・MRと、割り切る。
* 次に、HOCMか、まれにVSDか。TRも一応あり得る。
* しかし、詳細は心エコーにすぐ委ねましょう。
* ERでの聴診の役目は、心エコーに繋げることです。
* 右鎖骨に伝達されるのは、大動脈弁の音が大多数です。
呼吸音に邪魔されないのが、この方法の利点です。
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(この心電図所見について)
* かなりのhigh-voltageです。
* でも、やせ型体型だけでも、voltageは高くなります。
* 左室肥大(LVH)を、voltageだけで判断してはいけません。
* ストレイン型のST-T変化をきちんと呈しています。
* わずかですが、V1,2のST上昇は、この鏡面変化です。
* V1,2でQS patternですが、これは左室肥大で、水平面ベクトルが後方に向かっているために、こうなっています。虚血を意味しません。
* SVPCにより、RR間隔が揺らいでいますが、P波は反復性を持って確認できます。II, III誘導が、わかりやすいでしょう。
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現在、高齢者のASは大動脈弁硬化性のものが圧倒的です。40〜50才代でのASは先天性二尖弁を考慮します。(新規のリュウマチ性弁膜症に出会うのは、今の日本では、ほとんど無理。)
この症例は、6年の間に大動脈弁狭窄での圧格差が、40→130mmHgと進んでいます。狭窄部位のVp(最高血流速度)の、4V2が圧格差となります。
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この心電図を見て、
(とんでもない左室肥大がありそうだな)
(その理由は、大動脈弁疾患か、肥大型心筋症か、重度の高血圧の終末像か)
(病歴と心エコーで、結論を出そう!)
と、思考が進めば十分です。
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大動脈弁と僧帽弁の弁輪部石灰化が、進んでいます。
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胸部CT(coronal view)との比較です。
(注:大動脈弁とその弁輪部石灰化=ASでは、勿論ありませんよ)
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6年前(X年)と、今回(X+6年)の心電図比較です。ASによる左室肥大の進行が、明瞭です。
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* 著明なびまん性の左室肥大。壁運動の局在性の低下無し(このviewでは)
* 少量の心のう液・胸水あり。
* 大動脈弁の開放不全有り。
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