70才代男性です。
危なかったです。
奥さんの付き添いで、ER受診されたので、助かった症例です。対応の早かった看護師さん、頑張りました。
Hyperkalemia K=8.3 mEq/L
⭕️ 特徴的な尖りT波。
⭕️ 顕著な徐脈。
⭕️ P波の消失(いわゆる sino-ventricular conduction)
⭕️ QRSのwide化(しつつある)
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型どおりの対応として、カルシウム製剤の静注・急速補液・一時ペーシングを行いつつ、ICUでの緊急透析(カリウム除去)となりました。
高血糖かと思いましたが、BS=258mg/dLと、さほどではありませんでした。
服薬は、ARB・CCB・statin・DPP-IViなどです。
大量の野菜ジュース、オレンジジュース、ARBとカリウム値が上昇しても、仕方ないような状況でした。基礎には、糖尿病性腎症があったようです。
糖尿病の方は、(健康のために)思わぬ行動に出ることがあります。生活指導は、本当に大切なんです。
経時的な心電図の回復を、見てみましょう
血清カリウム値が、下がるにつれて、P波が回復し、QRS波形も安定化し、尖りT波も穏やかになりました。
クリックすると、ECGが拡大します。
この症例では、皆さんも診断にあまり困らなかったかと思います。
今回は、深く理解するために、
高カリウム血症の心電図を、お復習いしましょう。
その1) 血清カリウム値と心電図異常は、あんまり相関しない。
クリックすると、拡大します。
血清カリウム値が、高いと心電図異常は発生しやすいのですが、その頻度は上図のように、さほど高くありません。
逆に、6.0を超えないレベルで危ない心電図になっている事もあります。
我々の前に現れる高カリウム血症は、survivor達です。心肺停止を起こした症例達は、たどり着かないか、CPAです。バイアスてんこ盛り。
心電図で異常が無いから、高カリウム血症がない、と考えないで下さいね。
その2) なぜ、P波が無くなるのか?
P波が無いのに、RR間隔が整であることが、高カリウム血症でよくあります。けっこう、ヤバくなっている所見です。
Sino-ventricular rhythm (or conduction)と呼ばれます。
心房筋は、高カリウム血症のために、心室筋より先にへばってしまい、反応しません(=P波が無い)。
でも心房内刺激伝導系は、健気に伝達しており、房室結節を経てQRSを形成します。この場合、ほぼ徐脈となっております。
その3) wide-QRSの出現。
心室筋内の伝導が障害されて、伝導時感の延長→wide-QRSとなります。血圧も低下し、心停止寸前が、CPA現実的状況のはずです。
幸いにして脈が触れるならば、カルチコールの静注とメイロンでの補正を急ぐしかありません。(現実的方法は、成書で確認)
その4) 尖りT波の出現。
先鋭化したT波の出現が、やっぱり高カリウム血症を疑う最大のポイントです。尖りT+(P波消失) or/and (徐脈やwide-QRS)で、ヤバイ!高カリウム血症では?と慌てるのは吉です。
違っていても、いいんです。すぐに反応して下さい。
さて、上記のように覚えれば良いし、それで臨床的行動は出来るのですが、なんでこうなるの?と云う疑問が残ります。
埃を払いながら、頭の奥底より電気生理学の知識を持ち出して、次回のコラムでお話しします。
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