70才代女性です。呼吸苦が、一週間も治らずにER受診です。
洞調律で、CRBBBです。
異常q波が、V1-4まで認められます。
ST上昇は、V1-5まであります。
少し時間の経ったACSのようですが、半日経過したか、数日以上立ったのかは、この心電図だけからは、分かりません。
これに、下記の臨床情報が加わります。
*呼吸苦が、続いている。
*胸部レントゲン上のうっ血所見が、認められる。
CPK=208 U/L、トロポニン-I=14.65 ng/ml、BNP=2852.4 pg/ml (at ER)
*CPKは既に高値では無く、トロポニン・BNP値は高値示している。
*収縮期の心雑音が、明瞭である。
これらを、ベースに診断を考慮すると、亜急性期のACSですね。
この心雑音を、どう考えるかでしょう。
もともとある心雑音なのか、今回のACSで発生したのか?
新規発生の心雑音であれば、
- ◎僧帽弁逆流 (虚血性の乳頭筋不全による)
- ◎心室中隔穿孔(VSP : ventricular septal perforation)
の鑑別が必要です。
追加の証拠固めは、心エコーです。
ERでの心エコーによるVSP診断のコツは、右室内モザイクエコー(=高速血流)を、見つけることなんです。初めから穴(穿孔)を見つけようとはしません。
高速血流を右室内に見つけてから、心室中隔穿孔部位を探します。
ACSでは、壁運動障害を確認したら、心エコーをお終いに=心カテを急ぐあまり=しやすいですが、1分でいいんですよ、color dopplerは。
もちろん、VSPは心電図からは予測できません。その予測は、上記の情報の総合で行われます。
この患者さんには、準緊急のVSP閉鎖手術が行われています。冠動脈造影では、
- ◎ 二枝病変でした。
- ◎ 前下行枝(#6)の完全閉塞。
- ◎ 遅延像で、側副血行路によるRCA(#3,4)が見えています。
- ◎ 右冠動脈(#1)の完全閉塞。
- ◎ 同枝間バイパスで、#2が見えています。
【 亜急性期のACS心電図なのだと、臨床所見も併せて想起する 】
これができれば、初期研修医は卒業です。
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