80才代の男性で、持続する胸部不快感でER受診です。本人は、胸焼けと判断してました。
*前下行枝 (LAD : Left Anterior Descending artery)
*回旋枝 (LCX : Left Circumflex artery)
*右冠動脈 (RCA : Right Coronary artery)
(今回は、右冠動脈病変の心電図です。)
この症例は、初回の心筋トロポニン-I値=20pg/mL,CPK=45U/Lと正常範囲内でした。
ER研修医は迷いました。逆流性食道炎の症状かも。。
経過観察・1時間後の再検としました。
(搬入時と1時間後の心電図)
う~ん、、著変はありませんね。
でも、一時間後の心筋トロポニン値とCPK値は有意に上昇しました。循環器科コンサルトです。
すぐに駆けつけた循環器医は、
そしてER研修医に、こう云いました。
=心電図がどうあろうと、リスクの多重化した患者さんの胸痛発作は、循環器コンサルトして良いんだよ、すぐに。=
皆様方は、いかがだったでしょうか?
よくわかんない(・_・?)だった方は、以下もお読みください。
一度はやらかすER心電図です。シミュレーションで体得できれば、幸いです。心電図検定でも、出題されても不思議ありません。
(ER初回心電図の解説です)
*II, III, aVFで、ST上昇を示しています。
*II誘導は本当??気のせいじゃないの、くらいの上昇です。
*正常亜型でも、これくらいの変化はありそうです。
*しかし、aVLでのミラーイメージとしてのST低下は、強く虚血発作を支持します。
*しかも、胸部不快感の持続です。ACSじゃないと分かるまで、ACSとして対応します。この症例は、ACSでした。
*心エコーでの壁運動障害がよくわからなくても、まだ心筋酵素値の異常上昇がまだなくても、循環器科callありです!
*ST上昇は、III>II誘導で、RCA病変を示唆します。
この時のERは、救急車連続搬入で再検がやや後手になっています。1時間は、ちょっとloss time長かったです。
(搬入1時間後の心電図・右室誘導付き)
*どうでしょう、右側胸部誘導でのST上昇に、同意頂けますか?
*肢誘導・右側胸部誘導・後壁誘導(V7,8,9)は、もともとQRS電位も低めに出やすいです。全体の電位が低いと、ST上昇も直感的には認めにくくなります。
*場数を踏んでないと、すぐに気付く・自信を持ってST上昇を指摘する・・はやっぱり大変だと思います。
急性下壁梗塞時に、aVLでのミラーイメージ(ST低下)が起きる事を、明瞭に述べている書籍を見たのは、山下武志先生の2002年11月に出版された
心筋細胞の電気生理学―イオンチャネルから、心電図、不整脈へ (ベッドサイドのBasic Cardiology)
でした。自分が経験的に思っていたことが、言語化されていると感動した覚えがあります。
いまでも完全に使える書籍です。
冠動脈造影/PCIは、次のような結果でした。
けっこう大きな回旋枝です。下側壁まで十二分に潅流しています。
RCA #2の病変でした。PCI(STENT)で治療完了しました。
左室への潅流は4PD(後下行枝)に限局されています。
洞結節領域への血流は阻害されていない(ハズ)です。
慣れないと、心エコーでの壁運動障害が指摘できないかもしれません。
伝導障害は生じません。
右側胸部誘導がST上昇を示しても、右心不全が起きるとは限りません。左室梗塞の全てが心不全になる訳ではないのと同じです。
持続する胸痛発作では、この程度の心電図変化にも敏感に反応してください。ハズレは、ERでは許容されますから。
(心電図変化の時系列です)
【 持続する胸痛患者でミラーイメージの存在は、ACSである 】