胸痛が治まらず、ER受診となった患者さんです。
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◯ II, III, aVF のQS pattern と、ST上昇。
確かに気になります。よく見ると、小さなR波があり、rS patternです。単なる左軸偏位かもしれません。でも、STは上昇していますね。特に II 誘導は、rsr`Sと表現できる複雑な形です。さらに、aVL のミラーイメージとしてのST低下がありません。(この事は、 II, III, aVF の変化が、陳旧性かもしれない、と迷わせる所見です。読みが深い研修医ほど。。)
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◯ V5,6 のST上昇
この症例では、こっちがポイントですね。
明らかなST上昇で、側壁のACSを強く示唆しております。なお、V1,2でのST低下は、このミラーイメージです。都合のいい解釈と思われるかもしれませんが、物理的にきちんとした対称ではないのも、ミラーイメージなんです。
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◯ I, aVL のST変化は?
I 誘導のSTは、僅かに上昇している様にも見えます。0.5mmでしょうか?
aVL のST低下がないのは、側壁の梗塞であることを考えると、理解出来ます。ACSの主体が下壁ではないので、ミラーイメージとしての低下を示さなかったんですね。
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◯ V1,2 のST低下とIRBBB
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V1,2 のST低下は、右脚ブロックによるものではないか?と、疑問に思われた方がいるかもしれません。この症例は、QRS幅=0.106秒で、IRBBBです。単純に脚ブロックによる陰性Tと云いきれません。さらに、ST低下の形が、V5,6 のミラーイメージと感じられる(虚血っぽい)ものです。但し、この点は異論あり、の方がいそうです。イメージ診断とは、そういうものです。
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ついでに、右側胸部誘導も、見てみましょう。
ST低下していますね。側壁の梗塞のミラーイメージでしょうか?少なくとも、心電図上の右室梗塞は、無いわけです。
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でも、側壁は肺野が邪魔してよく見えないこともあります。その時は・・・やっぱり間違ってたらゴメンナサイで、循環器科コールです。
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この方は、こんなCAG所見でした。
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RCAは、intactです。
#13(LCX)の起始部からの完全閉塞でした。血管が乏しい、あるべき所に血管(#13)がない! で完全閉塞と理解されます。
ガイドワイヤーを挿入する取っかかりがないこと、虚血領域が狭いことより、血圧コントロール主体の保存的加療を選択しております。
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側壁の虚血を、心電図が示すことも、上記判断を支持してくれています。
では、この症例の経時的心電図変化を、見てみましょう。
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◯ II, III, aVF のQRS波形は、ほとんど変化ありません。STは基線に近くまで戻りました。陳旧性の変化だったかもしれません。
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◯ V5,6 のST上昇は、一旦T波末端の陰性化を経て、ほぼ正常化しました。
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◯ V1,2 のST低下は、第二病日より基線に戻り、T波も陽性化しました。
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◯ aVL は、我関せずで、変化しておりません。虚血部位は、LCX #13で、完全に側壁のみです。高位側壁のaVL は、ミラーイメージ(=ST低下)を形成出来ませんでした。
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Answer(2/2)では、ER心電図の詳細な読み込みを、ご披露しました。
. でも、これを〔凄いだろう!〕と、威張る気にはなりません。
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胸痛→ACSとして対応開始が出来れば、心電図の役目はお終いです。緊急カテをするならば、責任冠動脈の事前推定も、医学的興味の範囲です。
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V5,6 のST上昇は、初期研修医がよく見落とします。慣れると、大丈夫なんですけどね。回旋枝のACSは、鬼門です。
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Question:なぜ、V7,8,9を記録しなかったのですか?
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なお、最新の心電計は、右側胸部誘導とV7,8,9を、シュミレートして表示する機能を持っています。活用されて下さい。