80才代女性が、胸痛と呼吸苦で搬入でした。
Questionにおける看護記録を読めば、ACSとして対応しているのは、バレバレですね。呼吸苦で仰臥位が保持できないために、鎮静・挿管してアンギオ(DSA)室に搬入となっております。
ERでのちょい当て心エコーでは、心尖部のsevere hypokainesisでした。LAD病変の可能性と、たこつぼ心筋症を意識しつつの心カテ施行です。
ここで、まずER心電図を判読してみましょう。
* 洞調律です。
* V3-6のST上昇と、T波のちょっとした陰転化は、急性期所見です。
* よく見ると、II, III, aVFでもST上昇あります。
* でも、aVLでのミラーイメージとしてのST低下ありません。
* aVRも、静かにしております。
* V1でのST上昇もありません。
これらより、LADの中間部のACSか、タコツボ心筋症であろうとの、推定で緊急心カテに入りました。 挿管・鎮静した状況での冠動脈造影です。
ところが、次の心カテ所見を得ております。
LMT(#5)よりLAD起始部にかけて、有意狭窄が確認されます。LCX(#11)にも狭窄あり、両方ともIVUSでの狭窄確認を行いました。
IABPのサポート下に、PCI(stent)留置を、施行しました。
その後、状態は徐々に改善を得ております。
さて、重度のACSであったことを踏まえて、ERでの心電図を見直しましょう。
(Pre-PCIとPost-PCIで、LADとLCXの上下関係が、逆であることに、注意されて下さい。)
(Pre/Post-PCIで、 LAD,LCXの位置関係が、逆になっているのに、ご注意下さい。)
心電図だけ見ると、たこつぼ心筋症も十分に考えます。
aVRの変化もなく、V1でのST上昇もありません。LMT病変を想像しろと云われても、難しい。但し、挿管管理が必要とされる起坐呼吸は、留意すべきポイントでした。
とても危ない症例なのだと。
次に、酵素学的変化を提示します。
ご覧のように、BNPの上昇=心不全の出現はありましたが、CPK値自体は正常上限を超えておりません。トロポニン-I 値は一見高値ですが、単位がng/mLではなく、pg/mLであることに、ご注意下さい。
たいした心筋壊死もなく、著明な心電図変化のない段階で、LMT病変の治療に成功した症例です。STEMIですから、経過観察はあり得なかったのですが、成功させて、ほっとした症例です。
大切な教訓。
【 心電図のみから、LMT病変は否定できない症例があることを知るべし 】
【 ACSの重症度は、臨床dataのみならず、自分の感覚にも相談する 】
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