90才代女性の呼吸不全の進行でした。
急激に(一年間で)右心負荷が進むのは、
* 肺塞栓
* 左心不全の進行の二次的影響
* 進行の速い肺疾患→肺動脈の血管抵抗の上昇
を考えました。
DDimer上昇は軽度で、間質性肺炎の悪化で説明できる肺高血圧です。
今回は、原因疾患の鑑別ではなく、予想される心電図変化が何故起きなかったのか、を考察します。(考え込んでいるだけですが)
急性の右心負荷で出現する心電図変化は、
- ◎ 右軸偏位 ( I 誘導でのS波出現 or R<S波高となる)
- ◎ お約束の(S1Q3T3)が出現する
- ◎ V6のS波の明瞭化(これは、S1と同様の表現型)
- ◎ V1-4での陰性T波の出現
- ◎ 移行帯の左方変異(右心系が拡大して心室中隔が後方回転してしまう)
時計方向回転です
- ◎ P波の先鋭化(肺性P波は短期の右室系圧の上昇では、出現しにくい)
これらの組み合わせが、急性右心(圧)負担で出現する、ハズなんです。
X day(入院時)の心電図です。
V1-4の陰性T波が出現してます。これは、右心負荷を説明しているようです。
電気軸の時計方向回転・左軸変異は、もともとありました。
しかし、右軸偏位が発生しておりません。
私は、I 誘導がこうなるのを想像していました。
では、一年前(X-1 year)・X day・X+14days を経時列表示します。
(X-1year)と(Xday)を、よく比較すると、違いがちょっと見えてきます。
胸部誘導の陰性T波の一過性の出現がありました。
時計方向回転は、少し増強しているようです。
まあ、右軸偏位が無くても、病態悪化の原因検索で心エコーは必ずやると思いますけど。
もう一回(Xday)の画像を見てみましょう。
(上記の所見)
*広範な肺野の障害(間質性肺炎による@CT)
*心エコーでの右心系の著明な開大(1年前はなかった)
*左室短軸像での拡張期D-shapeパターン(右室圧50-60mmHg以上!)
さて、なぜ右心負荷による右軸偏位が起きなかったのか?
(私の考え)
- ◎ 左軸偏位→左脚前肢ブロックがもともと存在していた。
- ◎ さらに、もともとの時計方向回転がある。
- ◎ 左方向にベクトルが向く力が強く、右軸偏位となれない・・のでは。
しかし、どうも確信が持てません。
お師匠様に、お伺いを立ててみました。
返信を頂きました、図付きです。
(お師匠様said.)
電気軸は-45度から-60度に変化しているので確かに右軸偏位は起きていませんね。
先生が推測されているように左脚本前枝ブロックの影響かと思います。
右室拡大にともない右脚と左脚後脚を合計した心室の伝導系の傾きが変化して電気軸がこんな具合になったのだろうと思います。
残っている伝導脚を概念的に1本にして想像したイメージを別便でお送りします。
【左脚前肢ブロック時は、右心負荷時でも右軸偏位しにくいようです】
これは、今回初めて知り得た事でした。考えたこと無かったんです。
疑問が解けて、ゆっくり眠れそうです。明日、お休みですし。
お師匠様に、感謝です。